下げ札の歴史・下げ札のはたらき・製品イメージに合わせた下げ札を

ボトルのキャップ部に下げ札

「下げ札」とは、商品名、ブランド名などを記して物品に下げた札のことです。衣服を購入すると、衿口のあたりや身頃の左下のあたりに糸で結んだ小さな紙片が付けられているのをよく見かけますが、これが下げ札です。「値札」、「タグ」、「値札タグ」、「商品タグ」など、別の呼び方もいくつかあります。

江戸時代にあった「下げ札」の性格

様々な下げ札

こんにち、衣服に限らず広くさまざまな商品に下げ札は付けられていますが、この「下げ札」という言葉のルーツは江戸時代にさかのぼります。

下げ札は「下げ紙(さげがみ)」とも呼ばれました。公文書の欄外に貼り付けられた付箋(ふせん)のようなもので、補足説明や修正意見などを記しています。

また、天領の代官や諸藩の郡奉行が定めた年貢高を、個々の村に伝達するために発行した「年貢割付状」も「下げ札」と呼ぶことがありました。このほかにも、上位者が下位者に何らかの上意下達をおこなう際の書き付けが広く「下げ札」と呼ばれています。

品物の内容を表示するものはさらに古く

植物に下げ札

「下げ札」という言葉でさかのぼれば江戸時代に行き着きますが、「商品名やブランド名」をはじめ、ある品物の内容や由来などを説明する「札」と考えれば、そのルーツはもっと古くまでさかのぼるでしょう。

たとえば中世。鎌倉時代から室町時代の頃ですが、平清盛が始めた日宋貿易で「宋銭」という銅貨が輸入され、貨幣経済の広がりとともに物流が活発になった時代でした。この頃、馬借(ばしゃく)、問または問丸(といまる)と呼ばれる独立専業の運送業者が成立し、農産物や海産物をさかんに運んでいます。そうした荷物には、品名や産地を記した札が付けられました。役割・機能の面から言って、こんにちの「下げ札」のルーツと言えるでしょう。

奈良時代から平安時代、「租庸調」という律令体制下の徴税がきちんとおこなわれたのはごく短い期間だけでしたが、「租」という米の税、「庸」という労役(実際には一度もおこなわれず、布で代納)、「調」という特産品の税、いずれについても農民自身が背負って運び、納めることになっていました。「荘園」の時代になっても納税は「物納」です。徴税にあたる役人や荘官(しょうかん)は納められた農産物をまとめて領主である貴族や寺社に送ります。その際、荷物にはやはり札が付けられました。

現代の下げ札も「品物の説明」をコンパクトに

下げ札にメッセージ

現代の下げ札は、アパレル衣料品や雑貨品などに付けられることが多いです。一般的なのは数センチ×数センチの小さなカード状の札を、糸で商品につなぐ形です。

表示される情報の内容はさまざまです。たとえば、プロモーション商品だと「SALE」、「20%Off」、「\1,480」といった価格面の情報だけのこともあります。または、メーカーのロゴとブランド名を表面にあしらい、裏面には「ナイロン80%」などJISで定められた素材表示や価格を読み取れるバーコードなどを記載するケースも一般的です。

商品・アイテムにふさわしい下げ札が重要

メッセージの書かれた下げ札

いずれにせよ、アイテムに関する重要な情報を消費者にわかりやすく伝えることが下げ札のもっとも大事な役割です。素材や価格といった情報はもちろんのこと、商品の性格・方向性・品位にふさわしい紙質とデザインであることも大切です。「カワイイ系」アイテムならカワイイ系のイラストに丸文字などが向いているでしょうし、高品位のドレスに近いようなアイテムなら洋風の紋章をイメージしたロゴに欧文レタリングの文字でブランド名を記すなど、アイテムの雰囲気にふさわしいデザインが求められます。

形や紙質もアイテムに合わせて

バーコードの入った下げ札

下げ札は長方形の小さなカード状であることが多いですが、商品・アイテムに合わせてさまざまにデザインすることもできます。円形・楕円形やハート型、六角形など多角形も可能ですし、身の回りのモノや建物や動物などをかたどった形もできます。

紙質や素材もさまざまに変えられます。もっともよく見かけるものはロウ引きのツヤのあるボール紙ですが、ざらつきのあるマット紙やトレーシングペーパーにすると高級感が出てきます。「和」のテイストの商品でしたら、手漉き和紙の下げ札がよく似合うかもしれません。さらには、素材は紙とは限りません。ヒノキやシラカバのうすいスライスを素材にした下げ札もありえますし、竹もあります。プラスティック樹脂でもデザイン自由度の高い下げ札が作れます。また、3Dホログラムなど特殊な効果を持たせた下げ札もあります。

下げ札は、アパレルや雑貨を購入したあと、外して捨ててしまうのがふつうです。しかし、「なんとなく捨てられない、とっておきたい」と思わせるレベルまで達しているくらいですと、商品の売り上げを押し上げる力も相当にあると考えられます。

印刷の手法によるバリエーションも

印刷

下げ札の文字やイラスト、ロゴなどの印刷の仕方によっても、いろいろな味が出てきます。下げ札でブランドイメージを演出するなら、ちょっとひねった印刷法もおもしろいでしょう。

バーゲン品で「Sale」、「20%Off」などと表示するだけなら、見やすさ、わかりやすさ重視ですから、ふつうのオフセット印刷で十分です。

すこしレトロスペクティヴなイメージを演出したいのであれば、「活版印刷」という方法があります。活字を組んで作った「活版」を紙に押しつけて印刷する昔ながらの手法。紙がわずかにへこんだり、印字がかすれたりすることで、古めかしい味わいがかもし出されます。ざらつきのあるマット紙と組み合わせると効果的でしょう。

「黒地に白抜き印刷」という手法も、上品な、あるいは渋い味わいを出すには向いています。凝った箔押しにもよく似合います。

特殊効果のある印刷も効果的

特殊な下げ札

反対に、ポップな感覚の商品・アイテムであれば、おもしろい効果を持った特殊な印刷法でアピール力を高めるのも一興です。

たとえば、「厚盛印刷」や「バーコ印刷」という技法があります。紫外線や熱を当てるとふくらむ特殊なインクを使って絵柄を印刷し、イラストや文字に立体感を持たせる方法です。目で見るだけではなく、手で触って楽しむこともできますので、若者や子どもに向けた商品のアピールに効果を発揮します。

視覚以外の別の感覚へのアピールという意味では、「香り印刷」というものもあります。文字通り「香り」が感じられる特殊な印刷技術です。この印刷技術では、香料を詰めたマイクロカプセルが混ざっているインクで印刷します。印刷面を指先などでこするとマイクロカプセルがこわれて中の香料が揮発し、香りを感じさせます。香料は揮発性の合成化学物質で、ラベンダー、レモン、ローズ、ストロベリー、ミント、ゆず、バニラ、ヒノキ、アップルなど、数多くの種類があります。

このほか、「蓄光塗料」を使う印刷技術もあります。明るいところでしばらく光をあてておくと、塗料に含まれた蓄光物質が光をたくわえて燐光を放ち、暗いところで見るとぼうっと光って見えるというものです。かつてはラジウムなどの放射性物質が使われていましたが、近年は日本発の技術で放射性物質を含まない蓄光塗料が使われるようになっています。商品、アイテムの種類によってはアピール力を高められるでしょう。

商品・アイテムのイメージアップに下げ札を

下げ札と紐

商品・アイテムそのものの魅力はもちろん大事ですが、それを上手にわかりやすく伝えるのが下げ札の役割です。下げ札を成功したものにするには、何よりも商品・アイテムに「似つかわしく、ふさわしい」方向にすることが重要です。そのための形、紙質、デザイン、印刷にはさまざまな選択肢があります。